やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 幸福の棲む家 ]

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「ただいま」
「おかえりなさい、あなた」
 ダン、ダンダン!
「騒がしいな。タカシは二階か?」
「そうみたい」
 ダンダンダン!
「元気だな、あいつは。床が抜けるぞ、まったく」
「ふふ、本当ね。イタズラばっかりなんだから」
 ダン!
「顔色が悪いな」
「今日はいろいろあって、気疲れしちゃった」
「どうした?」
「お向かいの西沢さん、いるでしょ? 急におしかけてきて、美顔器買えっていうのよ。四十万もするんですって」
 ダン、ドンドン!
「買ったのか?」
「まさか! でも断っても断ってもしつこいの。ダメなら他のお友達を紹介してくれない? なんて言うのよ。冗談じゃないわ。いいともじゃあるまいし」
「マルチ商法か。厄介だな」
 ドン、ドン。
「でも、困ってたらタカシが助けてくれたのよ」
 ダン!
「へえ?」
「お茶を淹れようと缶を開けたらね……ふふ、クモとバッタが飛び出してきて、西沢さん悲鳴あげて逃げて行ったわ」
「タカシがやったのか?」
 ダン!
「そうみたい、あの子は虫が好きだもの。ふふ、西沢さんたら腰を抜かしてたわ。『この家は悪霊に呪われてる』とか叫んでた」
「なんだそりゃ。失礼だな」
「そうよねえ」
「おーい、タカシ! お母さんを守ってくれてありがとうな!」
 ドン!
「でも、食べ物で遊んじゃダメよ!」
 ドン、ドン!
「聞こえてるのかな」
「聞こえてるわ。賢い子ですもの」
 ダン。
「返事してるみたいだ」
「タカシは、いつでも元気ね」
「そうだな」
「もう、死んで五年になるのにね」
「ああ」
 ドン。
「…………」
「…………」
「あなた」
「うん?」
「私ね、妊娠したの」
「そうか」
「ええ」
「…………」
「…………」
「引っ越すか?」
「…………」
「…………」
「……やめておきましょう。生まれてくる子だって、お兄ちゃんがいる家のほうがいいでしょう」
「そうだな。その通りだ」
「ええ」
「腹が減ったな。ごはんは?」
「ちょっと待って、今あたためるから」
「俺たちはきっと、狂っているんだろうな」
「そうね」
「だけど、幸せだよ」
「私もよ、あなた」
 ……トン。
[ 創作短文 / 2006.05.29 ]





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[ 神様への手紙 ]

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 神様に手紙を書いた。
 紙飛行機にして、空へと飛ばす。五月の、うすぼんやりした青色の中へ。
 飛行機はすぐ、溶けるように見えなくなった。

 とたんに返信が紙飛行機で届いた。
 開いてみたけど読めない。何語で書いてあるかすらわからない。
 ためすがめすしているうちに、次々ドカドカ紙飛行機がとびこんできた。
 部屋からあふれて廊下に崩れ落ち、外へ流れ出してもまだ止まらない。

 ただいま、トイレにこもって解読中。
 あんたら一体何人いるんだ。

[ 創作短文 / 2006.05.26 ]






[ 選択のミライ ]

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「大好きな人、土日の旅行のおみやげ、買ってきたよ。うちに来て、すぐに」

 短いメールを三回読み返すと、俺は自販機にケリくれてからミライの家に向かった。
 何が土産だ、何が「大好きな人」だ。
 ミライと旅行に行ったのは俺だ。あの女には、他に男がいる。
 殺してやる。

 部屋に入ると、ミライはケータイを握り締めるようにしてメールを打っていた。
 俺は舌打ち。相手は別の男だろうか。
「送信完了、と。いらっしゃい、遅かったね」
「うるせえ、殺すぞ」
 凄むと、ミライは緊張感のない顔で笑った。
「どうしたの? お茶でも飲む?」
「うるせえ」
 立ち上がりかけたミライの手を強くつかむ。
 ミライは握られた手と俺の顔を見くらべた。
「何怒ってるの?」
 ミライが笑う。余裕の笑み。俺はひとつ、深く、溜息をついた。
「……お前の事を絞め殺してやれたらどんなに楽かって、時々思う」
「どうしたの?」
「浮気してるんだろ? お前」
 ミライはあきれたような顔をした。
「またその話? してないよ。あなただけだよ」
「嘘つけ。お前の言ってることは信じられねえんだよ」
「もう、どうしたら、信じてくれるのかな?」
 信じられたらどれだけ楽か知れない。
 下からのぞきこむミライの目。嘘をついてるのか本当の事を言ってるのか、俺には分からない。
「……どうしたらいいんだろうな。二十四時間、お前を縛り付けて見張ってられればいいのにな」
「そんなことして、お仕事大丈夫? やめるの?」
「バカ、お前のこと監禁するって言ってるんだぞ?」
「平気。束縛されるの大好きなんだ、あたし」
「変態だな」
「愛されてたいだけよ。束縛するって事は、それだけあたしのことが好きってことじゃない。縛るのとか、いいよ?」
 馬鹿らしさに苦笑が漏れた。
「そうだな、仕事は休めないしな。身体が二つあればやってやるよ」
「本当に? 約束だよ」
「ああ」
「でもね、心配しないで。あたしもあなたが好き。あなただけが大好き。ねえ、あたしの」



 ねえ、あたしの前カレのウソの話、したことあったっけ?
 「仕事があるから会えない」って言われてた日に、町中でぶらぶらしてるカレを見かけたの。何回も。

 文句を言うと、
「オレじゃない。お前の見まちがいだろ。その時間は仕事してたって」
 って言うの。
 言い訳だと思った。だってすごい似てるんだもん。

 一日だけじゃないんだよ。スーパーとか、ファーストフードとか。
 散歩してたり、お茶してたり、女とホテルに入ってたり。
 あっと思った時には、ひとごみにまぎれて逃げちゃうの。
「お前以外とそんなことするわけないだろ」
 最後には、めんどくさそうに言われた。
「いい加減にしろよ。別人だって言ってるだろ」

 別人ていうなら、それでいいわよ。
 次にカレを見かけた時、必死で追いかけて声をかけた。
「あんた、何?」
 カレはとぼけた。そういうゲームなんだって、あたしは思った。
 だから言ったの。
「あたしはミライ、はじめまして。あたしとつきあってくれませんか?」
「あんた、オレのこといっつも見てたよな」
「ひとめぼれなの」
 カレはにやっと笑った。
 仕草も、笑顔も、いつものカレとぜんぶ同じだった。

 そこからは、なんだかおかしな二股生活。

 カレのウソをあばいてやろうと色々した。カレAに言ったことを別の日にカレBに聞いたりするの。
 だけど、カレは絶対にひっかかんなかった。
 逆に、あたしのほうが区別つかなくなった。

「きのうは楽しかったね!」
「昨日は会ってないだろ? 誰か別の奴と間違えてないか?」
「そんなことないよ。あたしにはあなただけ」

「この前のホテルでも、このジュースあったね」
「は?」
「おいしいおいしいって飲んでたじゃない」
「何言ってんの? 他の男と間違えてるだろ」
「他の男なんていないよ。あなただけが好き」

「指輪、プレゼントしてくれてありがと」
「それはオレじゃない! お前、浮気してんだろ? 何でいちいち報告するんだ? オレに何をしてほしいんだ? 言えよ!」
「なにもないよ、あなただけが好き、大好き」

「別の男とつきあってんだろ」
「そんなことしないよ。あなただけが好……」
「もう聞き飽きたんだよ! 本当にオレだけなら、今すぐそいつと別れろ!」

 どっちと別れればいいの?
 ふたりとも、顔も体も声も性格も名前も趣味もクセもぜーんぶおんなじなんだよ?
 キスも、えっちのやりかたもおんなじ。

 どっちでもいいから、別れればよかったのかな、今思うと。
 そうでなければ、カレ同士にちゃんと教えればよかったのかもしれない。
 だけどその時のあたしにはどれも選べなかった。
 ちょっとおかしくなってたのかもしれない。

 そんなのがグズグズ、半年くらい続いたかなぁ。
 カレの家にいたら、もう一人のカレから電話がかかってきたの。
「そこが男の家か。今からいくぞミライ。お前も、その男も、みんなみんな殺してやる!」
 最後の叫び声は、電話とドアの外とでステレオで聞こえた。
 あとをつけられてたのね。
 部屋の中のカレが立ち上がって、あたしを殴った。
「やっぱり男がいたんだな!」
「ちがう、あなただけ、あなただけなの」
 蹴りつけられて、あたしは言葉を止めた。
 部屋の外のカレが固い物でドアを叩いてる。
 ガン、ガン、ガン。心臓の音とかさなって、頭がくらくらした。
 部屋のなかのカレが何かを叫びながら玄関に出て行くのが見えた。
 怖くてこわくて、あたしは耳をふさいで、目を閉じた。

 耳鳴りの向こう、かすかに、確かに、ドアの開く硬質の音がした。



「それで」
 俺の口の中はカラカラにかわいていた。
「何もなかったわ。気がつくと、誰もいなかった。あたしは部屋から逃げ出した。
 それで話はおしまい。それっきりカレとは会ってない。連絡もないし、ケータイも音信不通」
「……くだらねー」
 俺は息を吐く。
「茶番だろ。お前と別れるために、そういうややこしい芝居をしたんだよ」
「そうかな?」
「そうじゃなきゃ、双子の兄弟でもいたんだろうよ」
「あなたも?」
「は?」
「あなたにも、双子の兄弟はいる? よく似た他人を見たことはある? 多重人格の自覚はあるの?」
「何言って……」

 玄関のチャイムが鳴ったのは、その時だった。
 ピン、ポーン。やけに間延びした電子音が響く。
「誰だ、こんな時間に」
「あなたがきたのよ。メールしたじゃない」
「は? お前、何言って……」
 嘲笑は不自然にこわばった。
 ピンポン、ピンポン。せわしなくチャイムが押される。
 ミライが俺の手を取る。
 玄関までの数歩。足が、何かにあやつられたように進む。

 ドアのむこうで男が叫んでいる。
「いるんだろ、ミライ! ここをあけろ!」
 聞き覚えのある声だった。
「男がいるんだろ? 殺してやる」
 俺の声だった。

「大丈夫、今度は離さない。間違えないから」
 ミライがノブに手をかけ、一気に開く。やめろ。制止の声が喉の奥で凍る。
「さあ、あたしをひとりじめにして!」

[ 創作短文 / 2006.05.21 ]






[  ]

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 夜半から降りだした雨は飽くことも知らず、アスファルトを叩き続けている。
 私は人を殺した。死体は足元に転がっている。手から滑り落ちたままのキッチンナイフは雨に洗われ、銀色の光を取り戻している。
 私は逃げることもできず、凍えていた。
 投げ出したままの身体は冷え、指の先が消失したように感覚がない。荒く吐き出される息が白く奪われていく。身体の奥で熱が硬化していく。
 雨音が嗚咽も思考も掻き消していく。
 溶けて、混ざって流れていく。血も。泥も。道端にで踏みつけられた吸殻も。私の輪郭も。凍える息も。死体も。
 私を殴っていた拳も、蹴りつけた足も、ねめつけた目も、キスをした唇も、優しく触れたこともあった指先も。
 もう、元には戻らない。
 雨が。

 絶え間なく降り注ぐ時間の流れに、私は初めて悲鳴をあげた。
[ 創作短文 / 2006.05.18 ]






[ アカマの山の化け狐 ]

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 アカマの山の化け狐、道士の爺につかまった。ぐるりと鎖に取り囲まれたが最後、泣こうがわめこうがあがこうが、二度と逃れ得ぬぐるぐる巻き。

 天術外法の全てを極めた化け狐。悪事の限りを尽くした報いを受けるのだと、あまたの生き物の恨みの念、死よりも恐ろしい断罪が下されるのだと。
 誰もがそれを待っているのだと、キツネは思っていた。
 己が憎まれていることは、キツネ自身が一番よく知っていたんだ。

 ちいっとも反省なぞしちゃいなかったがね。

 殺せというキツネを前に、爺はカカと高笑い。
「さぁて、どうしたもんかのぅ。お前を殺すのは簡単よ。しかしお主は殺すにゃ惜しい」
 惜しいだ? ふざけんな、てめぇの都合で生かされたかねぇよ!
「ふむ。なれば引導を」
 爺が指で印を切る。途端に鎖が生き物のように、キツネをぎゅうっと締め上げた。
 いてぇ! 苦しい! 死ぬ! 死ぬ!
 七転八倒するキツネ。爺はにやりと笑って鎖をゆるめる。
「命は大切にするもんじゃ」
 立ち去る爺の背中を見上げ、ぐるぐる巻きのキツネは呟く。
 ……このままじゃオレ、飢え死になんだが。

 爺は次の日もやってきた。その次の日も、また次の日も。
 腹を減らしたキツネの目の前に、痩せた魚やキノコなど、抹香臭い食い物を落とす。
 キツネは了解も得ずにぺろりと平らげ、爺にぶつくさ。これっぱかりじゃ足りねぇよ。
 動けぬキツネの前にぴいぴいぴい。ヤマウズラが寄って来る。
 しめた! 食いつこうと口をあければ、鎖がぎゅうぎゅう締め上がる。
 ぴいぴいぴい。まるまる太ったウズラは無防備に目の前を通り過ぎていく。
 がくり、とキツネは肩を落とす。じゃらり、と鎖が鳴った。
 畜生、拷問じゃねぇか。
 カッカッカ、と爺は笑う。
 笑うんじゃねぇ! まったく爺の食い物は、腹の足しにもなりゃしない。肉だ、肉だ、肉を寄越せ。
「ふむ、お前が要らぬというなら要る者にやろう」
 豆をばらり、ウズラの前にばらまいた。
 慌てるキツネをよそに、ウズラは無邪気に豆をついばむ。
 ふざけんな、俺ンだろが!
 ウズラをおいはらおうとじたばたするキツネ。飯を取られて怒ったウズラはキツネに群がり攻撃を開始。
 畜生、痛ぇ! 毛ぇむしんな!
 コラ爺! 腹抱えて笑ってんじゃねーよ!

 そしてそのまま幾年かが過ぎた。

 ある日キツネは気がついた。
 月日のせいか爺いが耄碌したせいか、鎖の封印が緩んでいる。ぎちぎち身動きもとれなかったそれが、今じゃすっかり緩々だ。
 もう少し、あと少しでこいつを破れる。
 ただ、それには力が足りない。
 ぐぅ、と腹が鳴った。

 ぴい。キツネの鼻先をウズラがのぞきこむ。
 爺のやってくる足音が聞こえる。
 いつもと同じ、爺の顔。
 なんだかひどく、年食って見えた。
 足取りはよぼよぼとやよりなく、おちくぼんだ目に力はない。
 じゃらり。キツネが顔を上げると解けかけた鎖が音を立てた。
 だから、した。

 あっという間の出来事だった。
 ぐるぐる巻かれたまんまのキツネ、跳ね起きる勢いで爺の喉笛に食らいつく。
 これっぽっちもためらわなかった。
 久しぶりの肉は血は、甘くあまく、キツネの腹に染みた。


 やい爺。
 ひでぇ呪いを残していきやがった。
 鎖を破って腹は満腹。
 これからまた娑婆で好き放題にやれる。俺を馬鹿にした連中にも仕返しをしよう。ウズラなんぞ片端から丸のみだ。前みたいに、いや前よりもずっとひでぇ悪事をやってやる。
 最高だ。ゲラゲラ笑い出したくなるくらいにさ。

 この気分を一番に知らせたいのはあんただったよ。
 なぜだか、涙が止まらない。

[ 創作短文 / 2006.05.16 ]






[ こどものあそび ]

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 神様が、僕に小鳥をくれました。幸せの青い小鳥です。
 僕はとても嬉しくて、銀の鳥かごを買いました。
 狭い籠を嫌がって、小鳥はばたばた逃げ回ります。僕は翼を折りました。
 もう動けないように、足は鋏で切りました。鳥が涙を流すので、目を潰してあげました。悲しい声を止めるため、喉を炎で焼きました。
 そのうち小鳥は死にました。ぐずぐずに腐って消えました。

 僕の幸福が熟れてゆきます。

[ 創作短文 / 2006.05.12 ]






[ 薔薇葬 ]

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「今夜の月は特別に綺麗」
 腰まで届く薔薇の海のなか、皐月さんは笑う。人形のような、非の打ち所のない整った美貌が夜空を仰ぐ。

 皐月さんは美しかった。
 一面の花も、夜をひっかいたように転がる下弦の月も、彼女をひきたてるためのアクセサリーでしかない。
 腰まである薔薇の花々が、彼女を覆うベールのように広がる。
「ご存知ですか? 薔薇が一番強く薫るのは、美しい月光の下なのですよ」
「僕はそんな話をしに来たんじゃありません」
 僕は手を握り締めた。こみあげる感情を押し殺すために。
 そうですね、と彼女は花よりも花のように微笑む。
「お話しましょう、あなたのお父様のことを」

 父は六年前、行方不明になった。
 母は僕を育てるために働いて働いて働いて、そのまま倒れて死んでしまった。
 ありがちな話だ。定石通り、僕は父を憎んだ。
 父は女のところに行ったのだ。そして、母の葬式の時にさえ帰らなかった。

「裕太郎さんは、とても優しい人でした」
 柔らかいソプラノで紡がれる父の名前は全く別のもののように僕の耳に響く。
「若い恋でした。裕太郎さんは情熱はたくさん持っていたけれどお金と家柄がなかったので、お父様は怒ってわたしたちを引き離しました。あなたの生まれるずっとずっと昔の話です」
「昔の話は結構です。今、父はどこにいるんですか。なぜ僕らを捨てたんですか」
「約束だったからですわ。わたしと裕太郎さんの。ずっとずっと一緒にいよう、死が二人をわかつとも、と」

 青白い月光の下、柔らかく微笑する皐月さんは確かにとても若く、美しかった。
 恋焦がれた初恋の相手。父の目に、彼女は日々の生活に擦り切れた母と別の生き物のように映っただろう。
 母が哀れでならなかった。
 許せなかった。母は、父を愛していたのに。

 働きすぎて倒れた母は、その三日後に死んだ。
 母の脳はどこかが壊れ、父と僕をよく混同した。まだ恋人同士だった頃の思い出を何度も反芻した。
 母の割れた唇。ざらざらとしたそれで父の名を幾度も幾度もくりかえす。
 最期には僕がいたことさえ忘れた。
 思い出の中の父を、僕は憎んだ。それでもどこかにある父を慕う僕の心を、僕は憎んだ。

「六年前、父はなぜあなたのところに行ったんですか?」
 知りたかった。くろぐろとした感情が僕をせきたてる。
「わたしがお呼びしたのです。わたしを閉じ込めていたお父様が死にましたから。
 裕太郎さんは、今更意味のないことだと言いましたけれど」
「え?」
 ふいに違和感を感じた。皐月さんが言葉をかさねる。
「裕太郎さんは、あなたとあなたのお母様を愛していました」
「嘘です。僕に気を使わないで下さい」
「真実ですわ。だからわたしと一緒になることはできない、とおっしゃいましたもの」
「だが父は帰ってこなかった。あなたのところにいるんでしょう? それが何よりの証拠だ!」
 皐月さんは僕を見た。夜のような深い深い色の瞳――ぞっとするような。
「心はあなたたちに奪われてしまったんですもの。身体くらいは、わたしにくださいな」

 身体、くらいは?
 感じる歪みが、大きくなる。

「……父はここにいるんですか?」
「ええ、ずっとわたしと一緒。約束は必ず果たされなければなりません」

 違和感の正体に気づいた。
 皐月さんは、初めてみたときから一歩も動いていない。この薔薇の園の中、彫像のように、ずっと。

 眩暈のような感覚。
 誘われるように、僕は腰まである薔薇の茂みをかきわけ、彼女のもとに向かう。
 花弁はざらざらとこぼれ、棘は僕の腕を突く。
 毒々しいほど甘い香りが肺を満たす。

 皐月さんの身体は美しかった。
 皮一枚で支えられた顔よりも遥かに強い引力を持つ、異形の美。

「死が、二人をわかつとも――」

 ひからびた死体に根をはった薔薇は、僕にとろりとした微笑みを向けた。
[ 創作短文 / 2006.05.09 ]






[ マッド・モーゼルのはなし ]

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 マッド・モーゼルはうさぎのような耳の生えた、大きな大きな生き物でした。
 白い毛皮にずんぐりむっくり。森にはほかに、彼とおんなじ生き物はいません。
 それでも優しい彼のもとには、たくさんの動物たちが集まります。

「リンゴがなっている。どうしよう、食べてもいいのかな?」
 チチチ、と小鳥が答えます。
「食べなさい、マッド・モーゼル。それはあなたのものだから。
 食べてはいけません、マッド・モーゼル。それはあなた以外の腹を満たすためのものだから」
 マッド・モーゼルはリンゴをかじって、残りをみんなで分けました。
 そんなふうに、たのしくたのしく暮らしていました。

 ある日カラスがいいました。
「やァ、マッド・モーゼル。君はいつも山奥で、ひとりぼっちで過ごしちゃァいるが、それで幸せになれるのかィ?」
 マッド・モーゼルは首をかしげて聞きました。
「しあわせ? それはなんだい?」
「鳥や獣と遊ぶより、ずゥっと楽しくてエキサイティングな事さァ! 街に行けばもっともォっと面白いことがたくさんたァくさんあるのだゼ!」
 山を降りたマッド・モーゼル。白い毛皮の異形な彼に、人々は石のつぶてをなげつけます。
 ばけもの、ばけもの。聞きなれない名前で呼ばれ、自慢の毛皮もどろだらけ。
 悲しくなったマッド・モーゼル。ぽつりと小鳥に言いました。
「ああ、僕には幸せなど、別段必要ないものなのだ」

 森に帰ったマッド・モーゼル。いつもどおりの暮らしです。
 鹿と木の実を食べました。なぜだか楽しくありません。
 キツネの子供と毛づくろい。ふしぎと楽しくありません。
 ばけものと呼ばれた思い出が、胸をしくしく締めつけるのです。
「こんなに苦しいものならば、幸せなんか知らなきゃよかった」
 マッド・モーゼルの目からぽろり。涙がひとつぶこぼれて落ちます。
 チチチ、と小鳥が言いました。

「泣かないで、マッド・モーゼル。泣けば悲しみは増すばかり。
 泣きなさい、マッド・モーゼル。泣いて忘れてしまいなさい」
 鳥の答えに、彼は首をふりました。
「泣かなくてもつらいのは変わらない。泣いても忘れることはできないよ。
 僕はもう、もとにもどることはできないんだ」

「あなたは幸福です、マッドモーゼル。みんながあなたを愛しているから。
 あなたは不幸ね、マッド・モーゼル。皆がどれほど愛そうと、あなたはそれに気がつかない」
 小鳥はチチチ、涙をついばみ言いました。
「マッド・モーゼル、選びなさい。あなたの道を、あなたの手で」

 マッド・モーゼルは旅に出ます。
 いろんな世界を知るために。
 マッド・モーゼルは旅に出ます。
 いろんな幸せを知るために。

 マッド・モーゼルのいなくなった森の中、青い小鳥がチチチ、一声鳴いて泣きました。

[ 創作短文 / 2006.05.05 ]






[ アンバサ ]

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 昨日今日とひさびさびさびさアンバサビバダワ~♪くらい久々に更新してみました。
 前書いたショートショートはりつけたよ。ワーイ。
[ 履歴/日記 / 2006.05.01 ]






[ 或る天使の記録 その2 ]

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 死にかけた子猫に天使が言った。

「やあ、猫くん。
 神様が、この世界の人間はとても醜いので滅ぼしてしまおうとおっしゃるんだ。
 けれど、僕は気が進まない。君はどう思う?」

 猫は思った。
 四肢を折り、耳を削ぎ、目玉を刳りぬいた人間のことを。
 みんな死んでしまえ。最後の力を振り絞り、怨嗟をこめて猫は「にぁあ」と鳴いた。

 天使はにっこり笑って言った。
「ごめん、猫のことばはわからないや」


 だから、わたしたちはまだここにいる。
[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ ぼくとカタツムリ ]

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 僕がつかまえたカタツムリは、普通とは違うカタツムリでした。

「しゃべるカタツムリなんて僕はじめてだよ! キャベツ食べる?」
「我輩はカタツムリではない! こんなところに閉じ込めるな!」
「だって閉じ込めておかないと逃げちゃうだろ? 明日、学校に持っていってみんなに自慢するんだ!」
「なあ、我輩を逃がしてくれないか? そうしたらお前の願いをなんでも叶えてやろう」
「何でも? カタツムリが?」
「だから我輩はカタツムリではない! これでも一応王子なのだぞ!」
「カタツムリ王国のカタツムリ王子?」
「カタツムリではないといっておろうが! 何か願い事はないのか?」
「僕、いっかい食べてみたいものがあるんだ! それでもいい?」
「二言はない、さあ言え!」

 エスカルゴ王国のエスガルゴ王子は、僕のおなかにおいしくおさまりましたとさ。

[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ だいありー。 ]

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天き・はれのちくもり

 きょうは朝はいい天きでしたが、夕方からはまたくもってしまいました。
 たいふういっかがこなかったそうです。
 たいふういっかって、かみなりさまのことかなぁ。

 きょうもぼくは学校をさぼってゲームをしました。
 ゲームはたのしいです。

 うそです。あんまりたのしくありません。
 昨日もおとといも、日記には「たのしい」ってかいてあるけど、ほんとうはぜんぶうそです。

 ぼくのPS2はぐるぐるオープニングをながしつづけるだけで、ぜんぜんゲームができません。
 ソニーのいんぼうです。
 鬼むしゃ2もだいなしです。

 ひとりであそぶのはつらいので、おとうさんとおかあさんのところにいきました。
 いつもとおなじようにむしされました。

 ふたりそろってシカトです。おとなげないとおもいます。
 かていほうかいのじょきょくです。
 ぼくはぬすんだバイクではしりださなければなりません。

 おとうさんはひとりで天じょうからぶらぶらしてあそんでいます。
 おかあさんはくびに長いほうちょうをさしたまま、なにをいってもこたえてくれません。

 さわるとつめたいです。さめきったふうふなかだとおもいます。

 へやにもどると、ぼくがいます。
 PS2のコントローラーをにぎったまま、くすりをのまされたこともしらず、ねむるようにしんだぼくがいます。

 今みたら、バイオハザードのゾンビみたいになってました。
 もうすぐクリスとジルがくるかもしれません。
 じゅうげきせんがたのしみです。 おわり

[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ りんご ]

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 あるところに たまごをもてない ロボットがいました
 とてもちからがつよいので たまごをもつと このとおり

「ぐしゃり!」


 あるところに ひとりのおんなのこがいました
 おんなのこはまいにち ロボットにあいにきてくれました
「すきよ」
「すきよ」
「あなたがだいすきよ」


 ロボットはあるひ きょうかいに いきました

「やあ なやめる こひつじよ。きみのまよいを こくはくしなさい。
 もれなく1かい 1000えんだ」

「どうして あのこは きてくれるのだろう。みんな ぼくなんかみむきもしないのに」
「それは あい だよ。
 と みんなが いっている」

「あい ってなんだろう」
「あい とはひとにみちているもの。
 と せいしょにかいてある」

「かみさまは いるのかな」
「いるとも!
 なぜならわたしは かみさまなどいないと かみさまに いわれたことがない」


 ロボットはおんなのこが すきでした
 すきでした
 だいすきでした

「きょうも あのこはくるのかな。たまごのように、からだのなかに たくさんの あいをつめて」

「ぼくにもできるかな。あのこが いつもしてくれるみたいに あったかく やわらかく だきしめること」


「ぐしゃり!」



 たまごをもてないロボットは にんげんのなかに
 血と
 骨と
 肉が
 いっぱいにつまっているのだと 知ることができました

[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ マボロシ猫のマボロシ話 ]

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 ある雨の日。寝ているぼくの枕元に、白い猫があらわれたのです。

「こんにちは、わたしはマボロシ猫。あなたがほしいものをあげるわ」

 ぼくは一生遊んで暮らせるだけの宝石が欲しいといいました。
「そんなものでいいの?」
 マボロシ猫がシッポを振ると、ぼとぼとこぶしだいのダイヤモンドが現れました。
 マボロシダイヤモンド。ぎらぎら光るが触れません。

 ぼくは一生暮らすための家が欲しいといいました。
「あなたはそういうの好みなの?」
 マボロシ猫が耳を揺らすと、大きな家があらわれました。
 だけどやっぱりマボロシの家。雨がしとしと通り抜けます。

 ぼくは怒りました。マボロシ猫の出す物は、ぼくにはなんの役にもたたないものばかり。
 ただでさえ雨でうっとうしい天気。ぼくはいらいらしていたのです。
 マボロシ猫はかなしそうにいいました。しとしと、雨のように涙を落として。
「わたしはマボロシ猫。かたちのあるものはあげられない。だけど、だから、あなたに何かをあげたいの」

 ごめんよマボロシ猫。あやまってもマボロシ猫の涙は止まりませんでした。
 ぼくは考えて、考えて、考えて、ようやく思いつきました。宝物になる、かたちのないものを。



 見上げると曇る空に、一筋。
 手に入れたのは一生消えない、ぼくのための虹。

[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ 遺書 ]

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 これから俺は死ぬ。
 悲しまないでほしい。

 俺の人生はノイズに支配されていた。ざあざあと始終聞こえる雑音の中に混じる声、それが俺に命令を下す。
 殴れと言われて、知らない奴にいきなり殴りかかったこともある。
 押せと言われて、子供を車道につきとばしたこともある。
 ノイズに混じる声に逆らうことはできない。聞こえたと思った瞬間に、身体が動いてしまうのだ。

 病院も行ってみた。偏屈そうな精神科医は幻聴だから気にするなと言った。
 正常なやつらには分からないんだ。
 幻聴だろうと何だろうと、俺に聞こえる以上それは俺にとっての現実なのに。

 俺は死ぬ。自分で命を断つ。それがノイズに対抗する唯一の手段。
 だからどうか、悲しまないで。
 これが俺が下す、はじめての決断なのだから。

 ああ、今もざあざあ音がする。
 死ね、死ねと言ってい

[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






[ 或る天使の記録 ]

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 五人の男に天使が言った。

「永遠の楽園に連れて行ってあげましょう。苦しみも、悲しみも、老いも、貧困も、不実も、飢えも、不幸なことはなにひとつない幸福な世界。
 ただし、私が招待できるのは、あなたたちのうち一人だけです。
 さあ、誰が行きますか?」
 殺伐とした話し合いは円滑な殺し合いへと変わり、最後に一人の男が残った。

 天使は最後の男に笑って言った。
「では行きましょう、天国へ」

 天使の手には一発だけ弾のこめられた拳銃。
[ 創作短文 / 2006.05.01 ]






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