やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ お食事の時間 ]

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 ひた、ひた、ひたり、ひた。
「おい」
 隣を千鳥足で歩く斎藤に声をかける。
「はい?」
「何だか変な音がしないか?」
 ひたり、ひた、ひた。
 どろりと暗い、駅からの帰り道。
 静まり返った住宅街の細い路上には、俺と斎藤の姿しか見えない。
 なのに濡れた足音が、他の誰かの存在を主張している。ぼんやり生ぬるい空気の中、ひた、ひた。
 斎藤は耳を澄ますと、ああ、と何でもないことのように言った。
「餓鬼ですよ。オレについてきちゃったんだ」
「ガキ?」
「餓えた鬼、って書く奴です。子供くらいの背丈で、腹が中年のオヤジみたいに出っ張ってる鬼。課長代理も絵くらいは見たことあるんじゃないスか」
 ちら、と背後に目をやる。ほつほつ落ちる街灯の中には何もない。ひたひた、ひたり。
「なんかねえ、食っても食っても腹が減って減ってしょうがないらしいんですよ。今日、エサやり忘れちゃったからついてきたんス。そんな脅えなくても平気です」
 斎藤はカバンからお茶のペットボトルを取り出し、背後に投げた。
 街灯の隙間の影から棒のような腕がぞろりと伸びて、空中でボトルをつかみ取る。
 がり。プラスチックが軋み、ちいさな悲鳴をあげる。ちゃぷ、ちゃぷ、中に残っていた液体が揺れている。
「飼ってるのか?」
「ゴミ箱代わりにいいですよ。すげえ便利! 生ゴミも燃えないゴミもよく食うし」
 ぬるぬると湿気た空気の中、俺は後ろをちらちら見ながら歩く。ひた、がり、ひた。足音の主は闇を選んで歩いている。やはりその身体を見ることはできない。
 影鬼のようだ。鬼は光のあたるところを踏んではいけない。
 斎藤は俺に構わずしゃべり続けている。よっぱらい特有の音量を気にしない陽気な大声。
「ほら、最近ゴミ袋も高いじゃないですか! どんだけ節約したって、一年に二万以上かかるらしいですよ! 主婦のブログで見たんですけど」
「確かに高いね。うちの奴もよくブツブツ言ってる」
「そういや、課長代理は新婚でしたっけ。写真、見ましたよ。美人ですねえ、奥さん!」
「いや」
「ああ、でも課長代理はゴミ袋代くらいどうってことないか。一週間前まで一緒にヒラやってたのに、課長代理だもんな。大出世スね!」
「残業代がなくなるから赤字だよ。手当だって雀の涙だ。それくらい、お前だって分かるだろ」
 ひた、ひた。ついてくる足音。電柱の影、きちゃ、とペットボトルのねじ曲がる音がする。
「いいなあ、課長代理は。頭も顔も良くて、みんなに慕われて、成績も上げてて、上からの信頼も厚くて、奇麗なかみさんもいて。オレなんか何にもないッスよ。なあんにも」
「お前が言うほど幸せじゃないよ」
「あははははは、課長代理が不幸なら、オレはドン底ですよ!」
 げらげら、虚空に向かって斎藤が笑う。したた、ひた、ひた。足音がつられるように早くなる。
「飲み過ぎだ、斎藤」
「あー、なんかスンマセンね。暗い話ばっかして。ほんとスンマセン」
「いや、気にしてない。珍しいものを見せてもらったし」
「こいつのことですか? 課長代理も捨てられないもんで困ったら言ってくださいよ。便利なんスから。こないだね、壊れた電子レンジまで食ってたし。粗大ゴミもOKですよ! 魚の骨とか皿ごと食うし、新聞紙の束もぺろりとイってたし、何でもバリバリやれますから!」
 ひたり、ひた。

「自分より先に出世した、嫌いな人間の始末も、か?」
 俺は言った。
 斎藤が何も言わず俺を見た。餓鬼の足が止まる。

 無音。
[ 創作短文 / 2006.07.11 ]





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