やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ サッドエンド・モーニング ]

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 喉が渇く。
 椅子から転げるようにして着地。フローリングの冷たさが、ほてった頭に心地いい。

 机の上のノートパソコンでは、立ち上げられたWord文書がしらじら熱を放出している。
 中身は小説。主人公の男が、少女の股ぐらに銃を突っ込み弾丸が尽きるまで引き金を引き続けたところで停止している。
 少女の膣に仕込まれていた鍵は、ひしゃげて使い物にならなくなっているかもしれない。

 俺は冷蔵庫を開いてビールの缶を取り出す。
 震える指でプルタブをひねり、唇を近づけ、呷る。床に気泡まじりの水溜りができる。金色。
 ふらふらと、立ち上がれるようになった足で机に戻る。
 窓の外では、空が白々と開け始めていた。
 俺はアルコールと睡魔で飛びそうな頭を支える。プロットに沿って、指は半ば自動的にキーボードの上を這い回っていく。

 撃ったこともない銃で初めて人を殺し、泣き叫んでいる男。
 三日前まで、こいつはただのサラリーマンだった。
 俺にとっては半月前。放り出したままのプロットを思い出し、たまにはブラックな話も面白いかもな、と執筆を始めたときからのつきあいだ。
 男は妻と子を人質にとられ、会社を裏切り機密を持ち出し、謎ときのような指令に従い、原稿用紙三百枚分の旅をしてきた。
 その間ずっと、俺は男の動きを追って来た。思考をトレースし、行動理由を与え、挫けても無理矢理引き上げてきた。
 今もクライマックスに向かって、一緒に駆けている。奪われ、利用され、踏みにじられて尚、男は動き続けている。
 その理由は俺が一番良く知っている。

 戻りたいだけだ。プロローグと同じ日常に。
 ゴールに辿りつけば、ハッピーエンドが待っていると信じて。一パーセントもないだろう、蜘蛛の糸のようなその可能性にすがりついて。
 けれど俺は知っている。プロットに刻まれた終点。男は死ぬのだ。妻も子供も犯され殺され、その事実を叩きつけられながら一切の抵抗も許されずに死ぬのだ。
 夜が明けた。白い光がまっすぐに部屋を射す。
「生きろ」
 男の最後の疾走を書きながら俺は願う。
「生きろ、生きていきて生き延びろ」
 黴臭い床に叩きつけられ、それでも光を失わない瞳を描写しながら、俺は祈る。

 けれど廃倉庫の中、十三の銃口は男を狙ったまま動くことはない。
 奇跡を起こせるだけの、物語のほころびが見つからない。
 スーツ姿の悪役が上げていた腕を下ろす。十三の引き金が一斉に引かれた事をディスプレイが無情に告げる。死刑、執行。

 銃声の中、男は神の名を呼んだ、と俺の指が綴る。
 神は自らの作り上げた世界の中、絶望に落ちた。
[ 創作短文 / 2006.07.14 ]





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