やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 選択のミライ ]

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「大好きな人、土日の旅行のおみやげ、買ってきたよ。うちに来て、すぐに」

 短いメールを三回読み返すと、俺は自販機にケリくれてからミライの家に向かった。
 何が土産だ、何が「大好きな人」だ。
 ミライと旅行に行ったのは俺だ。あの女には、他に男がいる。
 殺してやる。

 部屋に入ると、ミライはケータイを握り締めるようにしてメールを打っていた。
 俺は舌打ち。相手は別の男だろうか。
「送信完了、と。いらっしゃい、遅かったね」
「うるせえ、殺すぞ」
 凄むと、ミライは緊張感のない顔で笑った。
「どうしたの? お茶でも飲む?」
「うるせえ」
 立ち上がりかけたミライの手を強くつかむ。
 ミライは握られた手と俺の顔を見くらべた。
「何怒ってるの?」
 ミライが笑う。余裕の笑み。俺はひとつ、深く、溜息をついた。
「……お前の事を絞め殺してやれたらどんなに楽かって、時々思う」
「どうしたの?」
「浮気してるんだろ? お前」
 ミライはあきれたような顔をした。
「またその話? してないよ。あなただけだよ」
「嘘つけ。お前の言ってることは信じられねえんだよ」
「もう、どうしたら、信じてくれるのかな?」
 信じられたらどれだけ楽か知れない。
 下からのぞきこむミライの目。嘘をついてるのか本当の事を言ってるのか、俺には分からない。
「……どうしたらいいんだろうな。二十四時間、お前を縛り付けて見張ってられればいいのにな」
「そんなことして、お仕事大丈夫? やめるの?」
「バカ、お前のこと監禁するって言ってるんだぞ?」
「平気。束縛されるの大好きなんだ、あたし」
「変態だな」
「愛されてたいだけよ。束縛するって事は、それだけあたしのことが好きってことじゃない。縛るのとか、いいよ?」
 馬鹿らしさに苦笑が漏れた。
「そうだな、仕事は休めないしな。身体が二つあればやってやるよ」
「本当に? 約束だよ」
「ああ」
「でもね、心配しないで。あたしもあなたが好き。あなただけが大好き。ねえ、あたしの」



 ねえ、あたしの前カレのウソの話、したことあったっけ?
 「仕事があるから会えない」って言われてた日に、町中でぶらぶらしてるカレを見かけたの。何回も。

 文句を言うと、
「オレじゃない。お前の見まちがいだろ。その時間は仕事してたって」
 って言うの。
 言い訳だと思った。だってすごい似てるんだもん。

 一日だけじゃないんだよ。スーパーとか、ファーストフードとか。
 散歩してたり、お茶してたり、女とホテルに入ってたり。
 あっと思った時には、ひとごみにまぎれて逃げちゃうの。
「お前以外とそんなことするわけないだろ」
 最後には、めんどくさそうに言われた。
「いい加減にしろよ。別人だって言ってるだろ」

 別人ていうなら、それでいいわよ。
 次にカレを見かけた時、必死で追いかけて声をかけた。
「あんた、何?」
 カレはとぼけた。そういうゲームなんだって、あたしは思った。
 だから言ったの。
「あたしはミライ、はじめまして。あたしとつきあってくれませんか?」
「あんた、オレのこといっつも見てたよな」
「ひとめぼれなの」
 カレはにやっと笑った。
 仕草も、笑顔も、いつものカレとぜんぶ同じだった。

 そこからは、なんだかおかしな二股生活。

 カレのウソをあばいてやろうと色々した。カレAに言ったことを別の日にカレBに聞いたりするの。
 だけど、カレは絶対にひっかかんなかった。
 逆に、あたしのほうが区別つかなくなった。

「きのうは楽しかったね!」
「昨日は会ってないだろ? 誰か別の奴と間違えてないか?」
「そんなことないよ。あたしにはあなただけ」

「この前のホテルでも、このジュースあったね」
「は?」
「おいしいおいしいって飲んでたじゃない」
「何言ってんの? 他の男と間違えてるだろ」
「他の男なんていないよ。あなただけが好き」

「指輪、プレゼントしてくれてありがと」
「それはオレじゃない! お前、浮気してんだろ? 何でいちいち報告するんだ? オレに何をしてほしいんだ? 言えよ!」
「なにもないよ、あなただけが好き、大好き」

「別の男とつきあってんだろ」
「そんなことしないよ。あなただけが好……」
「もう聞き飽きたんだよ! 本当にオレだけなら、今すぐそいつと別れろ!」

 どっちと別れればいいの?
 ふたりとも、顔も体も声も性格も名前も趣味もクセもぜーんぶおんなじなんだよ?
 キスも、えっちのやりかたもおんなじ。

 どっちでもいいから、別れればよかったのかな、今思うと。
 そうでなければ、カレ同士にちゃんと教えればよかったのかもしれない。
 だけどその時のあたしにはどれも選べなかった。
 ちょっとおかしくなってたのかもしれない。

 そんなのがグズグズ、半年くらい続いたかなぁ。
 カレの家にいたら、もう一人のカレから電話がかかってきたの。
「そこが男の家か。今からいくぞミライ。お前も、その男も、みんなみんな殺してやる!」
 最後の叫び声は、電話とドアの外とでステレオで聞こえた。
 あとをつけられてたのね。
 部屋の中のカレが立ち上がって、あたしを殴った。
「やっぱり男がいたんだな!」
「ちがう、あなただけ、あなただけなの」
 蹴りつけられて、あたしは言葉を止めた。
 部屋の外のカレが固い物でドアを叩いてる。
 ガン、ガン、ガン。心臓の音とかさなって、頭がくらくらした。
 部屋のなかのカレが何かを叫びながら玄関に出て行くのが見えた。
 怖くてこわくて、あたしは耳をふさいで、目を閉じた。

 耳鳴りの向こう、かすかに、確かに、ドアの開く硬質の音がした。



「それで」
 俺の口の中はカラカラにかわいていた。
「何もなかったわ。気がつくと、誰もいなかった。あたしは部屋から逃げ出した。
 それで話はおしまい。それっきりカレとは会ってない。連絡もないし、ケータイも音信不通」
「……くだらねー」
 俺は息を吐く。
「茶番だろ。お前と別れるために、そういうややこしい芝居をしたんだよ」
「そうかな?」
「そうじゃなきゃ、双子の兄弟でもいたんだろうよ」
「あなたも?」
「は?」
「あなたにも、双子の兄弟はいる? よく似た他人を見たことはある? 多重人格の自覚はあるの?」
「何言って……」

 玄関のチャイムが鳴ったのは、その時だった。
 ピン、ポーン。やけに間延びした電子音が響く。
「誰だ、こんな時間に」
「あなたがきたのよ。メールしたじゃない」
「は? お前、何言って……」
 嘲笑は不自然にこわばった。
 ピンポン、ピンポン。せわしなくチャイムが押される。
 ミライが俺の手を取る。
 玄関までの数歩。足が、何かにあやつられたように進む。

 ドアのむこうで男が叫んでいる。
「いるんだろ、ミライ! ここをあけろ!」
 聞き覚えのある声だった。
「男がいるんだろ? 殺してやる」
 俺の声だった。

「大丈夫、今度は離さない。間違えないから」
 ミライがノブに手をかけ、一気に開く。やめろ。制止の声が喉の奥で凍る。
「さあ、あたしをひとりじめにして!」

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[ 創作短文 / 2006.05.21 ]






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