やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 死んだ駒鳥の体温 ]

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 肉をえぐる感触。
 ブロック肉を切る時と変わらない。ナイフをつきたてると、由香里は悲鳴ひとつ上げることなく倒れ伏した。

「刺しては駄目。抜けなくなるからね」
 僕にナイフの使い方を教えたのは、皮肉にも由香里だった。入学式で勧誘されたサークルのキャンプ。普段のおっとりとした様子とは違い、てきぱきと動く彼女に、僕は恋をした。
「包丁は押すんじゃなくて引くときに切るの。ナイフでものこぎりでも一緒」

「本当だね、由香里」
 僕はナイフをざくりと引く。真っ赤な血が、果汁のようにあふれる。
 赤い点が、バスルームのタイルの上に扇情的に描かれていく。

 これは安全な殺人だ。
 トリックは、うさんくさい占いの店で買った、ボッタクリ値段の泥人形。
 血を与えて月光にさらすと、その血の持ち主そっくりの形になり、生きているかのように動く。昔のアニメであった、コピーロボットみたいなものだ。
 今この時、僕の形をした人形は、コンビニで立ち読みをしている。
 アリバイがある限り、僕が逮捕されることは絶対にない。完全犯罪だ。
 由香里の身体に幾度もナイフを振り下ろしながら、僕は低く笑う。
 血の匂いというのは存外気持ちが良いものだ。
 由香里、こうしてお前に触れるのは、どれくらいぶりのことだっけ。

 つきあおう、と言い出したのは僕のほうだった。綺麗な由香里。おとなしい由香里。料理の上手な由香里。
 だけど気持ちはすぐに冷めた。
 綺麗な外見は、飽きればそうでもなかった。おとなしいのは退屈だった。今時手作り弁当なんて爆笑ものだ。
 由香里はそれでも僕に尽くした。
 炊事に洗濯、言われたことはなんでもやった。生活費を削ってまで高価なプレゼントを買い――すぐにそれは現金の受け渡しになった。
 当然だ。退屈な女を、僕が構ってやってるんだ。少しぐらいのメリットはあってもいいだろう?
 なのにあの女、ガキができたとか言いやがった。堕ろせと言ったら抵抗した。
 殴った。
 由香里は驚いたように、僕を見た。驚きが別の感情に変わるのを、僕は見た。
 由香里のなかから何かがこぼれ、変質していくのが分かった。強い意志。

 殺意だ。

「由香里、これは正当防衛だ。僕に殺人なんて罪を犯させるお前が全部悪い。お前がいけないんだ由香里。お前が、お前が」
「――そうだね。私が悪かった」
 由香里がしゃべった。
「あなたのような男を選んだ私が悪かった」
 違う。目の前でぼろぼろの由香里の唇は動いていない。
 背中に鈍痛。
 悲鳴を上げて僕は床に転がる。
「あまり騒がないで」
 僕の腹をがつりと押さえたスニーカー。
 そこからすらりと伸びる、白い足。
 立ってる、由香里。見慣れた。生きてる。
 背中に包丁をつきたてたまま、僕はぽかんともう一人の由香里を見上げた。
「忘れたの? あの占い師を紹介したのは私よ。
 あの人形、あなたは値切っていったんですってね。占い師が怒ってね、私に全部を教えてくれたの」
 由香里の唇が瞬く。どこか哀れむような視線が僕を停止させる。
 バスルームに満ちていた匂いを、僕は何だと思っていたのだっけ。
 どろり、僕の血に溶けて流れ出る、強い土の香り。
「私も同じものを買ったの。ふたつ。
 あなたに今殺されてるぶんと、今この時、私のアリバイをつくるぶん」
「ゆかり」
「ねえ、私信じたかったのよ?」
 喉の奥からこみあげてきたかたまりが、血の、赤、吐き散らかされる。
 由香里はもう一本の包丁を、ためらわずに振り下ろした。
 濡れた音が、バスルームに響く。



「毎度。うまく行ったかィ?」
 差し出された封筒の厚みを確認し、占い師はにまりと笑う。
「アンタみたいな上客を、殺させるワケにはいかないからねェ。つまんないトコをケチる奴は、つまんないコトに足をすくわれるもんサ」
 女はこわばった唇を開く。
「あのね、彼は、私が」
「おっと、言わないでおきナ。俺は何も知らないサ。口止め料なんかいらねェよ。愚かな男が、愚かな死に方をしただけヨ」
「……いいえ、本当に愚かなのは私」
 まだ膨らみを見せない腹を押さえ、女は笑う。

 馬鹿な男。私を殺そうとした、取るに足らない、無様で身勝手な男。
 けれど恋情はまだここにある。
 私は永遠に、彼のもの。
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[ 創作短文 / 2006.06.20 ]






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