やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 或る天使の記録 その3・続 ]

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前回
「奇跡なんて起きねーって」
「起こせますよ。オレを誰だと思ってるんですか、もう」

 居酒屋で、隣に座った天使とまた飲んだ。

「じゃあ、貴方の願いを叶えてあげますよ。望みは何ですか? 女ですか金ですか?」
「即物的だな。せめて幸福とか言えよ、仮にも天使だろーがお前」
「女体や現金では幸福になれませんか?」
「……なるけどさ」
「そんな貴方に朗報です!」
 天使はカウンターを叩いて立ち上がった。皿のふちいっぱいまで盛られていたもずく酢が大量にこぼれる。
「この『大幸運☆ラピスパワーブレスレット』! これをつければ、ラブフェロモンに女はメロメロ蟻地獄、金運パワーに福沢諭吉がだーいぎょーれーつ!」
「つまんねーこと言ってないで服ふけよ。酢酸くさいぞ」
「もう貧弱なボウヤだと馬鹿にされませんよ?」
「そうだな。今までされたこともないけどな」
「もー、ノリわるいー!」
 天使はばたばた両手を振り回してあばれはじめた。
 やっぱり今日も酔っている。
「お前さあ、そうやって簡単に『願い叶えます』なんて言うもんじゃねーよ」
「なんでですかなんでですかなんでですかぁー?」
「まず座れ、酔っ払い。
 あのな、そう簡単に願い事が叶ったら、ありがたみもなにも無いだろう。女でも金でも他のもんでも、自分で努力してゲットするのが大事なの。その時うまくいかなくても、経験を生かして次につなげる。失敗は成功の母。人生には結果より過程が必要なんだよ」
「そんなもんですか」
「そんなもんなんですよ。こんなとこでクダ巻いてないで、ちゃんと仕事しろ」

「やっぱり、貴方はいいな」
 天使が笑った。
 トーンの違う声に、俺は思わず視線を向ける。
「オレが相手にするようなのは、強欲な人間が多いんです。一つ願いが叶えばその次を、その次が叶えばまたその次、際限なくループする」
 人形じみた白い横顔が、酷薄な笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「神に祈る人間の残酷さを知っていますか? 善良な弱者の顔で、オレたちに何をねだるか。
 健康でありますように。幸福でありますように。お金が入りますように。名誉が得られますように。長生きできますように」
 居酒屋の喧騒が、膜を通したように遠い。
 天使の呪文のような声だけが、俺の耳を釘付けにする。
「気に入らない奴が死にますように。好きな人の心がこちら側に捻じ曲がりますように。努力せずとも才能が得られますように。富と名誉が際限なく手に入りますように。不老不死になれますように。皆が自分を崇めますように。自分以外の全ての人間が――」
「お、俺は!」
 ぞくりとして俺は叫んだ。口の中がやけにべとついている。言葉が詰まる。
「俺は、そんなのは、いらない」
「そうですね」
 ふいに天使がこちらを向いた。
 透き通った明るい青の瞳が俺を捉える。
「貴方は、オレに何も望まない。だからオレはここにいられる」
 無機質で、ユニセックスな美貌。
 そうだ、こいつは天使だ。言葉を交わすこともできる。人間と同じかたちをしている。けれど俺とは別の、異質の存在なんだ。
 天使が翼を広げる。
「だから叶えてあげますよ、貴方の本当の願いを」
 そして手を天へと掲げ、高らかに叫んだ。

「生中ふたつ!」
「アリヤトーゴザイマー!」

「ビールかよ!」
「ジョッキがからっぽですし、欲しいでしょ? 飲めば幸福になれるでしょ?」
「なるけどさ! 三秒前のホラーな雰囲気はどこにいったんだ!」
 ギャアギャアわめいているうちに、アジア系の店員がビールを二丁、目の前にどかんと置く。
「オムタセシヤーター」
 謎言語を操りながら微笑む。むき出しの歯がキラリと白い。
「細かい事はおいといて、とりあえず乾杯」
「現金な奴だな、お前」
 どこかほっとした気分で、俺は差し出される金色のジョッキを合わせた。
 コン。重い音。泡があふれかけ、俺は慌ててジョッキに口をつけた。
 ごくんごくん。喉を鳴らして飲み干す。
 確かに、奇跡のように冷たく、旨い。


 目が覚めると自分の部屋だった。空はぼんやりと明るくて、夕方だか明け方だかわからない。
 俺は頭を掻きつつ起き上がる。
 喉がかわいた。
 四畳半の部屋を抜け、洗面所へ。
 歯磨きコップで水を三杯立て続けにあおり、息をつく。
 昨日、どうやって帰ってきたっけ。記憶がないな。
 うすぼんやりした鏡のなかには、ねむそうな俺の顔。
 額に、反転した赤い文字。

「魂、売約済」

 あいつ、やっぱり天使じゃない。
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[ 創作短文 / 2006.08.01 ]






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