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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 或る天使の記録 その5 ]

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 生まれる前の記憶。あたし、少しだけあるよ。
 真っ白な世界のなかにいたんだ。嫌な事なんかひとつもない、平和なとこ。うとうとと眠っているような、退屈な場所。

 ある日、翼の生えた綺麗な人があたしたちの仲間を何人か集めた。
「お聞きなさい、お前たちは選択を与えられた選ばれた者たちです」
 あたしたちは神妙な顔をしながら、綺麗な人の話を聞いてた。
「お前たちが生まれる世界はとても汚く、お前たちの送る人生もろくなものではない。
 故に神が温情を賜れたのです。お前たちには選択の権利が与えられました。地上へ産まれ落ち苦痛の多い生を送るか、このまま神の御許で安らかに暮らすか」
 あたしたちはふるえあがった。
 綺麗な人は順番に、これからあたしたちの送る「ろくなものではない人生」を教えてくれた。
 殺される運命の子がいた。自殺する運命の子がいた。お金で売られる運命の子がいた。運命を聞く前に怖くなって生まれるのをやめる子もいた。
 最後に綺麗な人はあたしを指さした。
「お前が送る人生は、とても辛くて苦しいものです。良い事など一つもなく、人を傷つけ憎み恨み、そして同じくらい恨まれながら死んでいく」
 あたしはそんなのイヤだった。
 綺麗な人はにっこり笑って、
「それではこちらにいらっしゃい」
 そう言って、手をひろげたの。仲間たちはその中に飛び込んでいった。翼が抱きしめるように広がるのが見えた。
「ほら、あなたも」
 あたしもそうしようと思った。
 ばりん、て音がするまでは。

 忘れない。忘れられないのよ、あの時の事は。
 真っ白い世界の破片が落ちて、真っ黒い闇がすこしだけのぞいた。闇はあたしたちと綺麗な人を見ると舌打ちをした。
「悪趣味な」
 がりがりと引っかかれるような強い声だった。怖いのに、いつまでも聞いていたくなるような不思議な響き。
「骨を抜いた泳げぬ魚、翼を落とした飛べぬ鳥。そんなものを幸福と呼ぶか。お前の神は最悪だ」
 綺麗な人が眉をしかめてあたしに言った。
「聞いてはいけません、あれは悪魔です。お前を苦痛へ堕とそうとする存在です」
「笑わせる」
 悪魔と言われた闇は、空間を歪めるようにしてあざ笑った。
 そして、あたしを見た。
 あたしだけを見た。
「選べ、女。憎むことも妬むことも苦しむこともあがくこともできない世界は、お前が生くるに足るか?」

 今でもはっきりと覚えてる。
 ぞくぞくする、あの感情。強く迷いのない、有色の吸引力。
 悲惨な運命のことなんか頭からトンでた。
 大事なことは心が知ってた。
「選べ!」
 あたしは頷くと、まっすぐに闇のなかに飛び込んでいった。

 うん、言われたとおり、あんまいい人生じゃない。キツくて逃げ出したいことも、死にたくなったりすることもいっぱいある。人にそう思わせたこともあるね、きっと。
 どうしようもなくなった時はぼんやりと夕暮れの中、あの時の悪魔の異形の瞳を、人間とは違った目のかたちを思い出す。
 どんな結末になっても死ぬのは怖くない。魂はもう奪われているから。
 生まれる前の、初恋の記憶。


「きっと地獄に落ちるのね」
 そう言って、彼女は花のように笑った。
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[ 創作短文 / 2006.08.15 ]






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