やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ 神様への手紙/人魚姫のナイフ ]

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 「好きな人」のはじめては、おなじクラスのタカサキ君。サッカー部のエースで、あこがれてる女の子はたくさんいた。
 小学二年生、春のころ。
 わたしは人を好きになったことがはずかしくて、だれにも言えなかった。遠くからタカサキくんを見ては、モソモソと妄想にふける、不健全な小学生時代。

「スキな人、いるでしょ?」
 だから、おさななじみの朝姉ちゃんに言われたときには死ぬほどおどろいた。
 朝姉ちゃんは近所にすんでるひとつ年上の女の子。きびしい取り調べに、わたしはすべてを自白した。
 聞きおわると、朝姉ちゃんは重々しくたずねた。
「告白しないの?」
「むり、できない。うまくいくわけないし、怖い……」
「どうして?」
「だって、タカサキくんと、ほとんどしゃべったことないし。きっと、わたしのなまえも知らないんだよ」
「だから告白するんじゃない!」
 朝姉ちゃんは怒ったように言った。
「うまくいかなくてもいいじゃん。スキなのに、そのタカなんとかくんがあんたの気持ちを全然知らないなんてくやしくないの? せめて名前くらいおぼえてもらうべきじゃない?」
「で、でも告白なんて、どうやったらいいかわかんないし」
「よび出して、スキだって言えばいいじゃん」
「ぜったいむりだよ!」
「手紙でもいいじゃん。やるまえからムリっていうの、よくないよ!」
 むちゃくちゃいわれて、わたしはキレた。
「わたしは見てるだけでいいの! 朝姉ちゃんは好きな人、いないんでしょ? そんな人にわたしの気持ち、わかんないよ!」
「いるもん!」
 むねをはって、朝姉ちゃんは堂々と逆ギレた。
「私にだって、好きな人くらいいる! だから、私も手紙書く。あんたも書きなさい。いいわね!」

 押し切られるように書いたラブレターは、タカサキくんの机のなかにいれた。少女マンガの主人公になったみたいで、どきどきした。
 結果は「ごめん。オレ、好きなコがいるんだ」で玉砕。
 落ち込んだけどスッキリしたのも確かで、朝姉ちゃんとはすぐに仲直りをした。
「朝姉ちゃんはどうだった? だれに告白したの?」
「ないしょ」
 答えた横顔がさみしそうだったから、朝姉ちゃんもうまくいかなかったんだろうなって思った。


 「つきあった人」のはじめては、一年上のセンパイ。好きになったポイントは、メガネと長い指。読書家で、頭がいいところもかっこよかった。
 高校二年の時、告白してOKをもらった。初めてのキス、初めてのエッチ。浮かれたわたしはちくいち全部、朝姉ちゃんに報告してた。

「へいへい、お熱いことで」
 あきれながらも、朝姉ちゃんはわたしののろけ話をいつも聞いてくれた。
「ひとり身にはこたえる話よねぇ」
「朝姉ちゃんもカレシつくればいいのに」
「私はあんたみたいにモテないからさ」
「うそ!」
 朝姉ちゃんはわたしなんかよりずっときれいだ。すらっとした美人で、面倒見もよくて、明るくて頭もいい。
「わたしが男なら、ぜったいぜったい朝姉ちゃんみたいな人彼女にするのに!」
「そう、ありがと」
 朝姉ちゃんは、自分の話にはそっけない。
「ねえ朝姉ちゃん、好きな人いないの?」
「モーガン・フリーマン」
「おじさん趣味?」
「ちがいます、性格! おちついた大人の人がいいの」
「ふーん、モーガン・フリーマンみたいな人なのか。年上? 写真ある? わたしにだけ、こっそり教えて?」
「ダメ」
「えー」
「私のことより、自分の恋愛の心配してなさい。あんた、意外に飽きっぽいんだから」

 センパイは受験が忙しく、だんだん連絡が減っていった。わたしもジャマかなと思うとメールもできなかった。
 そのままなんとなく、自然消滅。


 「失恋した人」のはじめては、同じサークルの日高さん。
 おいかけておいかけて、部屋にあがりこんで、やっとのことで手にいれた。そう思ってた。
 有頂天だった。毎日食事をつくりにいって、彼のご機嫌をうかがって、尽くして尽くして尽くしまくった。甘い言葉はひとつもなかった。気まぐれに与えられるカラダだけの関係に酔った。
 ある日ふいに「うぜぇから来んな」って言われて、おしまい。
 二股かけられてたって、あとから同じサークルの友達に聞いた。遅いよ。

「ばっかだねぇ」
 めちゃめちゃに泣いてたら、家に朝姉ちゃんが来た。
「ナンパな奴だって、最初からわかってたんでしょ? のめりこんじゃって、ばかばかしい」
「お説教しに来たなら帰ってよぅ……」
「いやです、帰りません」
 部屋の真ん中に、抱えて来た買い物袋をどっかり置く。白いビニールの口からのぞく、焼酎、日本酒、ビールに缶チューハイ……
「飲みなよ。そんで忘れちゃえ」
 ごろごろ出てくるお酒、お酒、お酒。
 知的美人の朝姉ちゃんが、こんなに大量のアルコールを抱えてきたのかと思うとおかしくなった。
 笑ったはずなのに、涙が落ちた。止まんない。
 朝姉ちゃんがビールをあけて渡してくれた。乾いた喉に炭酸が痛い。でもそれがきもちよくて、一気に飲みほした。
 三本あけるころには、もうへべれけ。アルコールが足の先までまわって、ソファにぐったり横になった。
「少しは楽になった?」
 次のビールを差し出しながら、朝姉ちゃんが言う。
「うん。でももう二度と恋愛はできない気がするよ」
「何言ってんの、まだまだこれからでしょ? 私なんかずっと片思いだよ」
「例のモーガン・フリーマンみたいな人?」
「そう、モーガン・フリーマンみたいな人」
「その人、朝姉ちゃんのこと知ってるの?」
「気持ちには気づいてないね。親友のポジション。恋愛相談されたりするんだ」
「ひどーい! にぶいにもほどがあるよ!」
 わたしが怒ると、朝姉ちゃんはだまって笑った。
「そんな男忘れて、別なひととつきあっちゃえばいいのに」
「そう思った時もあったけど、やっぱり好きなんだよね」
 とろとろと酔った朝姉ちゃんは、目もとがほんのり紅色にそまって、とても色っぽかった。こんなにキレイな人に気がつかないなんて、その男は馬鹿だ。わたしは一気にモーガン・フリーマンがきらいになった。
「見る目ない人なんかほっぽっちゃったほうがいいよ。かなえる気もない片思いは時間のむだだとおもう」
 朝姉ちゃんは、カップ酒をあおりながら、自嘲。
「いいんだよ、ムダでもつらくても、私は。そばにいられれば、それで満足」
「そんな」
「あんただってそうでしょ。女って、基本的に人魚姫の傾向があるのよ。突っ走り型の自虐系恋愛」
 わたしは言葉につまった。
 王子に会うためだけに声を失い、歩くたびに激痛のはしる足を手にいれた人魚姫。わたしも日高さんに夢中になってた瞬間は、たしかに損得なんか考えてなかった。
 朝姉ちゃんは苦笑した。
「ま、私は関係を壊したくないから言えないだけだけどさ」
「人魚姫だってそうじゃないの? 大好きな王子様に妹扱いされて、好きだって言えないうちに、別の女にのりかえられて」
「言えないんでしょ、声がないんだから」
「しゃべらなくったって気持ちはつたえられるはずだよ」
「あんたは甘い。言葉にしないと、絶対つたわらない」
 朝姉ちゃんがスルメをくわえたまま噛みしめるように言う。どれだけ鈍いんだろう、モーガン・フリーマン。
「よっぽど好きなんだね、その人のこと」
「時々殺したくなるほど好き」
 わたしは、どうだろう。日高くんのこと、そこまで好きだったろうか。
 お酒のせいか、自分の気持ちがわからない。あいまいな気分のまま、わたしは新しいビールを開ける。
 ソファの上でねがえりをうった朝姉ちゃんが、わたしの顔をのぞきこんだ。
「あんたが人魚姫で、王子を殺せってナイフ渡されたらどうする? 殺す?」
 わたしはしばらく考えて、首を横にふった。
「わたしは、やっぱり泡になるとおもう」
「王子が別の女と結婚しても?」
「大好きな人を殺して、ひとりで生きててもしょうがないもの」
「生きられると思う?」
「え?」
 朝ちゃんは、イタズラっぽくわらった。
「人魚姫が王子様を殺しても、海の世界を裏切った罪は消えないでしょう。だから、オマエが死ぬ前に王子を殺せ、オトシマエをつけろ、と。お姉さん人魚はそういう理由でナイフを渡したわけなのですよ」
「人魚って、ヤクザな世界なんだねぇ」
「そうだよ、タマとったるぞー!」
 朝ちゃんがあたしの首に腕をからめてくる。あたしはグエ、と女の子らしからぬ悲鳴をあげてギブアップ。
「ちょっと、あんたたち夜遅くまで何やってるの」
 おかあさんがドアをあけて、呆れたように言った。
「全く、いつまでも子供なんだから」
 次の日は、頭がガンガンして何も考えられなかった。

 日高さんからは、しばらくたって一度だけ電話がきた。わたしがとる前に切れた。
 それっきり、どうなったのか知らない。


 二十八の時。
「もう二度と恋愛できないって言ってたのに」
 ふたりきりの控え室で、朝姉ちゃんがぼやく。
「ごめん」
「ふられたとき、さんざんなぐさめてあげたのに」
「へへ、ごめん」
 うれしさがとまらない。鏡の前で、くるりと一回転。真っ白なふわふわのウェディングドレスがゆれる。
 あと一時間で、わたしの結婚式がはじまる。
 にやにやしたわたしに、あきれたように朝姉ちゃんが言った。
「初恋の相手と結婚なんて、ほんとに少女マンガみたい」

 わたしの「結婚する人」は、小学校ではじめて好きになったタカサキくん。
 同窓会で再会した彼は、小学校の面影もないくらいぽちゃりと太ってた。がっかりしてた女友達もいたけど、わたしは話やすくて、すごく安心した。
 メアドを交換して、二人で会うようになって、三年目で結婚が決まった。
 彼からのプロポーズは、手紙だった。

「小学生のときラブレターがすごくうれしかったって、タカサキくんに何回も言われた。ぜんぶ、朝姉ちゃんのおかげだよ」
 朝姉ちゃんは淡いブルーのワンピース。長い黒髪がよく映える。ウェディングドレスのわたしより、ずっときれいだった。モトが違うから、しょうがないか。
「ほんとにありがとね。ブーケも朝姉ちゃんに投げるから、ちゃんと取ってよ」
「そんなことしなくていいから」
「朝姉ちゃんもがんばって。ちゃんと告白しなよ、モーガン・フリーマンに」
「無理だって」
「だって、朝姉ちゃんには幸せになってほしいんだもん!」
 そう言うと、朝姉ちゃんは困った顔をした。

「私、あんたに嘘ついてた」
「え?」
「二十年前のラブレター、一緒に書いたやつ。あれ、私は渡せなかった。ごめん」
 突然の言葉に、わたしは戸惑う。
「べつに、あやまるようなことじゃないよ。それに、あの時のことがあったから、今結婚するのかもしれないし。感謝してるよ」
「モーガン・フリーマンの話も嘘だよ。そんな人、好きじゃない」
 わたしはぽかん、と口をあけた。
「そうなの? べつに、嘘なんかつかなくってもいいのに。なんであやまるの?」
 朝姉ちゃんは静かに言葉を重ねる。
「だけどね、好きな人はいる。片思いなんだ。それだけは本当」
 朝姉ちゃんがわたしのおとがいに指をかけた。
 間近にある朝姉ちゃんの顔。真珠色の肌、切れ長の目。おそろしいほどきれいだった。
 息を呑んだわたしの口に、朝姉ちゃんのそれが重なった。焼き切れそうなほど熱く、わたしは思わず目をとじる。
 ほんのわずか、触れるだけのキス。
 グロスを塗ったと唇と唇がはりつき、離れる瞬間を遅らせる。刹那でも永く、別れを惜しむかのように。
 あごから指が離れると同時に、私はすとんと床に座り込んだ。何が起きたのか、理解できなかった。
 真っ白になった頭のなかに、唇の濡れた感触とその意味だけが残っていた。

 苦笑といっしょに、朝姉ちゃんはわたしの手に四角いものを落とす。
「ごめん。読んだら捨てていいよ。読まないで捨ててもいい」
 手紙だった。
 ピンクのチェックの柄、封筒の裏をとめた花のシール。
 おぼえてる。わすれられない。はじめて書いたラブレターのレターセット。朝姉ちゃんとはんぶんこした、大切な思い出の。
 封筒の端はこすれて白く、角が丸い。
 わたしは言葉を失う。封筒から目がはなせない。
 宛て先に書かれているのはわたしの名前だった。朝姉ちゃんの幼い丸い字。強い筆跡に、決意の重さが見えた。
 ぼんやりしたわたしの耳に、遠ざかっていくヒールの足音がした。ドアが開いて、閉まる音。
「ばいばい」

 朝姉ちゃんがいってしまう。
 止めなければ、と思った。
 ドアにとびついて開けて、朝姉ちゃんを呼び止めて、そして。
 そして、なんて言えばいい?
 気づかなくてごめんなさい?
 傷つけてごめんなさい?
 気持ちに応えられなくてごめんなさい?
 この手紙の、二十年ぶんの想いを押さえつけて、まだ友達でいてね、って?

 喪失感がナイフよりも強く胸を刺した。
 おさななじみ。友達。親友。憧れの人。言葉にならないほど大切な人。なのにわたしは彼女を選ぶことができない。
 ごめんなさい。わたしもあなたがほんとうに大好きでした。
 だからさよなら。わたしの人魚姫。
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[ 創作短文 / 2006.09.14 / Co2 ]






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Edit
こちらこそ、ご訪問頂きありがとうございました。
せっかくコメントを頂いたのですが、宣伝と見なされる箇所がありましたので、一部分削除致しました。申し訳ありません(^^;

これからも宜しくお願い致しますね(^^)
有賀冬 / URL / 2006.09.18

Edit
ホラーランキングは?

お越し戴きまして、誠に有難う御座います。
arkajes / URL / 2006.09.18

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