やちおさんハイブリッド!

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  • 有賀 冬
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或る管理人の記録

  • ギャー!大変更新しておりませんでした!
    調子が戻り始めたので、またチョコチョコ更新再開いたします。


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[ ことりときいろのふうせん ]

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 きいろのふうせんは おこりんぼ。
 まいにちまいにち
 ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。
 もんくを いっては ふくれてばかり。
「どうして ぼくは きいろなんだ! あかいふうせんに なりたかったのに」
 それをみていた ちいさなことりが ききました。
「なにが そんなにいやなの? きれいなきいろなのに」
 ふうせんは いやなかおをして
「あんたには わからないよ」

 きいろのふうせんは つぎのひも。
 ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。
「どうしてぼくは 12こ 100えんなんだ! ほかのやつらより ずぅっと おおきくなれるのに」
 ことりはふうせんに いいました。
「どうして 12こ 100えんが いやなの?」
 ふうせんは またぷくぷくふくれて
「あんたにはわからないよ」

 その つぎのひも。
 ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。
「どうしてぼくは まるいふうせんなんだ! ほそながいやつなら いろんなかたちになれたのに」
 ことりは めを まるくして
「まるいからだが きらいなの?」
「うるさいな!」
 とうとう きいろのふうせんは おおきなこえを だしました。
 びっくりしたことりが ぱたぱたと にげだしました。

「ほら あんたにはわからない。うまれたときから そらがとべるやつに ぼくのきもちは わからない」
 それから きいろのふうせんは

ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ!!

 まいにち おこっていたせいで とてもおおきくなりました。
「どうだ ぼくより おおきくなれる やつはいないぞ」
 けれど すこしも たのしくない。
 おなかのなかが すかすかして なにかがたりない きがするのです。

「ねぇ ねぇ」
 ことりのこえが しました。
 ことりは そらをとんでいました。
「ずいぶん おおきくなったのね。わたしより ずっとずっと おおきくなったのね」
 じぶんより ちいさなことりを みて ふうせんは かなしくなりました。
「どうしてぼくは おおきくなったんだろう。こんなからだ いらない」
「どうして?」
「おもくて おもくて うごけないんだ。いやなきもちが とまらない。ぼくは ほんとうは なにがほしかったんだろう」 きいろのふうせんから ぽろり。
 なみだが ひとつぶ おちました。
 ことりは なみだを ついばむと
「かなしい あじね」
 といいました。
「わたしには はしるための あしはなくて。なにかをつくるための てのひらはなくて。
 だけどそのかわりに そらをとぶ はねがあるのよ」
「ぼくにも あるのかな。ぼくにしかできない ぼくだけのちから」
「あるわ」
 ことりが いいました。

「ほんとうに ぼくにちからがあるのなら こんなからだは いらない」
 しゅるるん!
 きいろのふうせんは たまったくうきを はきだしてみました。
「からだが かるい。
 すこし ちいさく なったけど」
 きいろのふうせんは なんだか うれしくなって からだにたまった ぶつぶついっていたくうきを
 はいて はいて はいて はいて はいて!

 しゅるるるん!

 かるくなったからだが じめんをはなれて
 みあげた さき
 あおく あおく あおく

 そら が
[ 創作短文 / 2006.08.25 / Co0 ]






[ 祈りの庭 《後編》 ]

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《前編》

「天国って何ですか?」
 ある時、私は博士に聞いた。

「難しい質問だね」
 博士は読んでいた本から顔を上げて言った。
 博士はどんな忙しいときでも何をしていても、私が話し掛けると真正面からきちんと目を見て答えを返してくれる。会話など聴覚と発声器官が動けば良いはずなのだけれど、私は博士のそういう姿勢が嫌いではなかった。
「難しいのですか」
「生きているうちは見ることができない世界だからね」
「博士も知らないのですか?」
「残念ながら」
 博士は笑って、そして本を出してきた。
 両手を広げたくらいの大きな画集。鮮やかな緑と青で構成されたたくさんの絵。草原と、細かく描きこまれた花々。柔らかそうなオレンジ色の雲の間に天使の姿。
「昔の地球ですか?」
「違う、これは天国の絵だよ。全ての望みが叶う場所だよ」
「博士が死亡した場合、この世界に行くのですか?」
「行けるといいね」
「私は行けるのですか?」
「もちろん!」
 刹那の逡巡もなく、博士は即答した。
「そこに行ったら何をする? 何でもできるよ!」
 こういう時の博士は、子供みたいな笑顔になる。本物の喜び。
 だから私は言った。
「私は、何も望むことはありません」
「なにも?」
 博士は困ったような顔。
「そうかぁ……それは少し、さみしいね」


 違うのです、博士。
 毎日食事をつくって、掃除をして、洗濯をして。
 たまに機械類を点検して、私の修理をして。
 そういう繰り返しの日常は不快ではありません。
 私に不足はありません。幸福なのです、とても。
 そう言えばよかった。


 博士の肉体をつくったところで意味がない。
 私が望んでいるのは博士自身が生き返ることだ。

 そう考え、博士の脳をトレースした。シナプスの情報をメインコンピューターに流し込み、既存の人工知能のデータと置き換える。

「博士」
『けけけけけけけけけけけけけけけ』
「博士」
『かかかかかかかかかかかかかかか』
「博士、私です」
『ひひひひひひひひひひひひひひひ』

 単音の電子音が重なり合う。コミニュケーション不可能。
 遅すぎた。脳は脆い組織だ。博士の遺体は私が発見した時ですら、死後数時間は経っていた。もうすっかり壊れてしまっている。スキャンそのものが不可能。
 初めて私は焦った。
「博士」
 博士の眠るカプセルに触れる。
「ねえ、博士。天国はどんなところですか」
 私の声は機械の駆動音に紛れ、冷たい部屋のなかに溶けて、消える。
 返答はない。
「答えて下さい、博士、博士!」


 博士に内緒でこっそり、誕生日のパーティーの支度をしたことがあった。
 奥の広間を「隔壁が壊れた」と嘘をついて閉め切り、博士が眠っている間に飾り付けをした。
 どきどきした。
 シェルターの中を探し回り、飾りになりそうなものを探した。
 シーツの端にフリルをつけてテーブルクロスをつくった。
 匂いが漏れないよう、完全密封した厨房でケーキを焼き、ただちに排気をした。
 クリームがつくれなかったのでアルコールで味をつけ、砂糖菓子に色をつけて乗せた。
 昼間は記憶に三重のプロテクトをかけてまで秘密裏にしたくせに、思考のどこかで早く見つかればいいのに、と思っていた。
 私は柄にもなく浮かれていた。
「博士、お誕生日おめでとうございます」

 博士は泣いたのだ。
 ぼろぼろと、声をあげて、子供のように。
 兵士だった私は、涙なんかたくさん見た。
 だから知っている。あれは喜びの涙ではない。
 あとで「ありがとう」といったけれど。笑ったけれど、嘘だ。

 私は目を開く。
 蓄積された記録から、現実に視線を戻す。
 博士は死んだ。死んだのだ。死んだ。
 もう二度と動かない。
「どうしてですか、博士」
 私は胸に手を当てる。
 ごつりと重い、ピストルの感触。
「どうして一人で行ってしまったのですか」
 ピストルは、博士のベッドルームを掃除している時に見つけた。見てはいけないような物の気がして、だけどそこに戻すこともできなくて、私は銃をポケットにこっそり隠した。博士は気がつかないはずもないのに、何も言わなかった。
「博士、どうして何もおっしゃってくださらなかったのですか」
 ピストルに弾丸は一つしか入っていない。自分で自分を殺すためだけの道具。失われた世界から取り残されたこの静かな部屋で、博士が願った安息の形。
「私を連れていかなかったのは何故ですか」
 ピストルは私が身につけているのが一番安全だと思った。これで博士がいなくなることはないと、不安項目を一つ削除した。
 私は、とても愚かな機械だ。

 博士の死。今ならその理由が分かる。
 この世界で最後にひとり残ってしまったこと。
 私のような壊れかけのロボットに出会ってしまったこと。
 博士は私とは違う。
 博士を得ることができた私とは違う。
 たくさんの失ったもの、それを忘れるように、思い出さないように、そうして生きてきたのに。
 私が壊れれば博士は私と出会う前よりも孤独になる。淡々とした日々の先にある、絶望と恐怖。

 博士は私を恨んで死んだはずだ。
 こんな小さなお守りすら持つことを許さなかった私を。
 博士の修理もできない役立たずな私を。
 博士が死んだのに涙のひとつぶさえ流せない私を。

 ――衝動、というのだと思う。
 テーブルの上に水差しがあった。
 引き寄せる。
 博士が死んだことも知らなかった私が、あの朝なんの疑問ももたず用意したもの。
 いつもの日常なんかもう何時間も前に破壊されていたのに、そんな事も知らなかった私の、馬鹿な私の名残。

 水差しを持ち上げる。歪んだ関節がエラーを返す。無視した。
 そのまま、眼球めがけて水をこぼす。
 視界が揺れた。
 あふれる水滴に、視覚センサーが焦点を設定しきれず、その任務を放棄した。歪む。
 瞬いた拍子にあふれたものが、こめかみを伝い落ちる。それが私の体温でほんのわずか温度を増していく。
 涙とは、これだけの事か。くだらない。つまらない。どれだけ水を流そうと、もう博士は生き返らない。
 水滴がどこかの隙間から滑り込んだ。
 頭脳の奥でばちり、弾ける音。焦げた匂いが直接鼻腔センサーに




めのまえがいっぱいの


ひかり




 博士。
 私は人間になりたかったのです。
 あなたと同じ人間になりたいのです。

 ずっと言えなかった。言いたかった。言えなかったんです。
 これが、願いと――










ブつん。










 ……強い土の匂いがした。
 湿った、生きた土の匂い。
 瞬きをくりかえすと、ぼんやりとしていた視界がクリアになっていく。
 指先に、痺れるような心地よい感覚。頭の中をかきまわして――そう、冷たい。この感覚は冷たいというのだ。
 目の前にある私の手。
 触れる。握る。柔らかい。
 手にも足にも人工皮膚のつなぎ目がない。爪を立てるとチリと痛みが走った。
 頬、腕、唇。触れる。

 身を起こすと、そこは大きな草原だった。なだらかな稜線の向こうは暖かな色の靄がかかっている。遥か遠くにきらきらと水面の反射が見えた。
 見上げると見たこともないほどの青の空。

 天国だ、あの絵と同じ。
 全ての願いが叶う場所。
 じわじわと喜びがこみあげてきた。立ち上がる。左足も動く。私の人間の体。
 私が人間になれた!
 自然に唇から言葉がこぼれた。
「博士」
 かさりと後ろで草を踏む音。
 私は振り返る。博士、私はずっとあなたを――

 そこには、一体のブリキの人形があった。

 四角い頭。
 羽織った白衣。袖口のコーヒーの染み。パイプをつないだ細く長い指。
 鉄の箱を組み合わせたような、オモチャみたいな姿。

(全ての望みが叶う場所だよ)

 無機質な博士の目。
 死ぬ前の自分と同じ。
「博士」
 触れる。冷たい。
「私も、博士と同じ事を願っていました」
 あなたとおなじものになりたいと。
 博士はぎい、と音を立てて小首をかしげると、口をパクパクと動かした。
 チカチカと、目の奥で赤と緑の電球が点滅する。

 弾けた。
 私は笑った。博士の稚拙なロボットの姿に。私は笑った。博士の反応が可愛らしくて。私は笑った。天国の、神様の皮肉に。私は笑った。涙がこぼれた。

 私は笑って――
 ピストルを取り出し、こめかみにあてた。
[ 創作短文 / 2006.08.22 / Co0 ]






[ 祈りの庭 《前編》 ]

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 今日、世界で最後の人間が死んだ。
 天国に行ったのだ。


 死体となった彼を見つけたのは私だった。
 いつものようにドアを開け、水差しをテーブルの上に置いて声をかける。
「博士、起きてください」

 死んでいた。

 枕元に転がった睡眠薬の瓶は、すっかり空になっている。薄く開いたままの瞳孔は動くことがなく、唇は弛緩し、ぽっかりと開いた口から軽い腐臭がした。
 涙は出なかった。私にはそんな機能がついていないから。
 さて、どうしよう。
 はじめに考えたのは、博士の事より自分自身の事だった。
 私の自己修復機能はすっかりさびついていて、博士がいない今、どこかが壊れたらそのまま動かぬ人形となる運命だ。
 博士を欺いた罰だ。
 胸のポケットに手を当てようと腕をあげると、磨り減った関節球がキィと耳障りな音を立てた。


 最後に修復してもらったのは二日前のことだった。
「いつもありがとう」
「何ですか、突然」
 私の左足を分解しながら、博士は静かな声で言った。
「突然じゃないよ。いつもいつも思ってるんだ。君がいなければ僕はこんなふうに生きてはいないだろうな、と」
 私は椅子に腰掛け、博士は私の足元で作業をしていた。
 いつもは見えない博士のつむじ。
 それを見下ろしながら私はいつも通りの口調で言った。
「そうでしょうとも。博士は縦の物を横にしようともなさらないもの。少しはご自分で片付けたらどうですか」
「やろうとは思っているんだよ」
「思っているだけで現実が動くのなら、私も苦労しないのですけれど」
 私がため息をつく真似をしても、博士は苦笑して修理を続ける。
 博士が下を向いているので、私がじいっと見入っていたとしても気づかれる恐れはない。
 白くて長い指がするりと動くだけで、部品のひとつひとつが新品のようにぴかぴかになっていく。
 魔法のようだと思った。
 そう感じるくらいの機能は、私にだってある。
「ここには、私と博士しかいないのですから。私を修理してくださるのは博士しかいないのですから」
 そんな言葉が、珍しく言えた。
「私にもありがとうと言わせてください」

 あのとき、博士はすでに死を決意していたのだろうか。
 分からない。何度リピートをかけても、流れるのはいつも通りの日々だけだ。
 私の記録は磨耗しない。
 映像はここにある現実と遜色がないのに、瞼を開けて見えるのは博士の死体ばかりだ。もう動くことはない。

 そうだ、と思った。
 動かないならば、動かせばいい。
 私が博士を修理してあげればいいのだ。いつも博士が私にしてくれるように!


 とりあえず博士の部屋に非常用のカプセルを運び込んだ。博士の遺体をコールドスリープの状態にする。
 口内細胞からDNAを取り出し、食肉用の培養プラントで博士のクローンをつくることにした。
 そう遠くないうちに、きっと博士が元に戻る。
 博士は肉が嫌いだったから、このプラントが動くことはほとんどなかった。
 私がここに来たばかりの頃など、ろくろく料理さえしていなかった。

「きちんとした食事を召し上がってください!」
「別にこれだっていいじゃないか」
 ポロポロと固形の栄養食品を齧りながら博士は言った。
「すぐ食べられるし、料理する手間も省けるし、第一食事ごときでプラントをいくつも動かすのは合理的じゃないよ」
「駄目です!」
 ぴしゃりと言うと、博士は困った顔をした。視線は何か助けを探すように天井をさまよう。
「僕は好きなんだけど……」
「栄養の吸収率が違うのです! 博士もいつまでも健康でいたければ、決められた時間にしっかりと食事をとるようにしてください!」

(そうだ。これは博士と会って三日目の記憶)

 蜘蛛の巣がはったプラントを掃除して稼動させるまで、六時間と四十五分もかかった。
 博士は動き回る私の隣にうろうろと来て、「手伝おうか?」と言った。私はもうムキになっていたから「結構です!!」と言い切った。
 でも配線が全然分からなくて、結局博士に手を貸してもらった。
 その間中、私はずっと不機嫌でそっぽを向いていた。
 できた材料で料理をして、博士がせっかく「おいしい!」と言ってくれたのに信用しようともしなかった。
 なんて贅沢な記憶だろう。


 博士は蘇らなかった。
 博士のDNAを持った肉の塊が生産されただけだった。


 私はもともと戦争のために作られた。
 一線で活躍する戦略的兵器ではなく、歩兵のひとつとして。
 元々その国は戦争などするつもりはさらさらなかった。式典のための行進、大きな飾りのついた長銃、剣舞。儀礼化された練習を繰り返すだけの軍隊。
 それは当然のように、死に物狂いの敵軍にあっさりと負けた。
 矜持の高い軍だった。
 負けた事実が把握できなかったのか、許せなかったのか、とにかく壊したかったのか、狂っていたのか。何かの手違いか。使ってはいけないはずの兵器が投入された。

 世界は滅びた。多分、きっと。

 気がつくと私は一人だった。
 体のあちこちがぎしぎしと音を立てていた。
 私を守った塹壕の壁は、指でつついただけでボロボロと砂となって崩れた。
 ぽっかりとあいた雲ひとつない空。
 私の他に動くものはなにもない。
 私は愚かにも、味方の軍勢などを探した。あるはずのないものはどこにもなかった。
 うろうろと二百五十ニ時間と十三分歩いたところで足の関節が壊れた。
 変質した素材は硝子の砕けるような音を立てて割れた。

 歩けなくなった。

 歩けなくなった途端、現状の認識さえおかしくなった。
 何のために歩いているのかが分からなくなった。
 どうしてここにいるのかが分からなくなった。
 私は何をすればいいのかが分からなくなった。
 そもそも、私が何なのかが分からなくなった。
 叫んだ。怖かったのだ。誰もいない焼け跡に取り残され、生き物の声ひとつしないその状況が。

 けれど、暴走する感情とは逆に、論理回路は冷静に計算を弾き出していた。
 こんなところにとどまっていても、どれだけ叫んだとしても、何一つ状況は変わらない。助かりたいのならば行動を起こさなければならない。
 何を? どうやって?
 どうせ、ここで壊れるのだと思った。
 壊れて、崩れて、この焼け野原の砂のひとつぶになるのだ。たったひとりきりで――

「やあ」

 だから、声をかけられた時はショートするかと思うほど驚いた。
 白衣を羽織った、ひょろりとしたのっぽな男だった。しゃがみこんでいたから、余計そう見えたのかもしれない。
 亜麻色の髪に太陽の光が透けて、やたらと背の高い電気スタンドみたいだった。
 あんぐりと口を開けている私に、その男はやたらと緊張感のない笑顔を向けた。
「一人なの? 僕は――ああ、僕は怪しいものじゃない。あそこに住んでるんだ。すぐそこの、ホラ、小山みたいに見えるだろ? あれがシェルターになってて。隔壁の構造は僕が発案したものなんだけど――」
 ペラペラと三十分強、男はいかにその隔壁が丈夫で安価で安全であるかを地面に図まで描いて私に説明した。私はぽかんと状況忘れ、それを聞き続けていた。

(今考えると苦笑が漏れる。きっと、博士は緊張していたのだろう)

 そのうち、私の足首が砕けているのに気づいた彼は「君、ロボットだったんだ!」と驚いた。
「あ、いや、ロボットだからってその、あの、えーと……」
「構いません、私、兵機ですから」
 私は、なるべく相手を緊張させないように笑った。
「どんなふうに言われるのも、扱われるのも馴れていますから」
 彼はひどく悲しい顔をした。まるで彼自身が傷つけられたように。
 そうして私に手を差し出した。
「行こう」
「え?」
「うちにおいで。君の治療をしよう」

 人間に背負われるのは初めての体験だった。
 私はひどく重いから、彼の腕がしびれて途中でぶるぶる震えてきた。なのに「降りましょうか?」と私がいくら言っても頑として首を縦に振らず、一時間近くかけて私をシェルターの中に運び込んだのだ。


 変なところで博士は頑固だった。
 私は凍った博士を収めたカプセルに触れる。ポケットが当たり、がちりと鈍い金属音を立てた。
 博士、ごめんなさい。謝ります。だから起きて下さい。
 思い出話をしませんか。早く目を覚まして下さい。

《続》
[ 創作短文 / 2006.08.18 / Co0 ]






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